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播州刃物
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兵庫県小野市の伝統的特産業として生産されている家庭刃物や鎌は「小野の鋏(はさみ)」「小野の鎌」という名称で230余年の長きにわたり全国的に広く親しまれ愛用されてきました。それと同時に優秀な生産技術で着実に発展をとげてきました。
しかしそれから数十年。時代の変化とともに播州刃物は様々な課題を抱えることになっていました。シーラカンス食堂のデザイナー小林氏をプロデューサーに迎え播州刃物を新たな播州刃物にする試み。それがこの新たな「播州刃物」です。
播州刃物 取材記
今回は兵庫県の西側、小野市の伝統産業「播州刃物」を取材させて頂きました。
取材を終えた今、ぜひ伝えたい、二つの数字があります。「73」と「101」です。
播州刃物の現状、「73」
あまり聞きなれないかもしれませんが、いわゆる三大刃物産地と呼ばれる関、堺、燕三条に続く刃物の産地が播州(兵庫県)です。ひとくくりに刃物の産地と表現しましたが、各々で得意分野があって、産地ごとに様々な特徴があります。小野市の播州刃物は包丁などではなく主に鋏(はさみ)や鎌を得意としてきました。
鋏がどのように作られているのか知るため、播州刃物の産地小野市を訪ねました。
最初に話を伺ったのは、播州刃物ブランドを展開する「小野金物卸商業協同組合」理事長の田中さんです。
播州刃物の全体としての取りまとめをしているのが小野金物卸商業協同組合。卸商業の組合ですが、小野市の刃物作り全体を考えた活動をされています。その田中さんから聞いた驚きの数字、「73」。一体、何の数字だと思いますか。
・・・答えは、小野市の刃物職人さんたちの平均年齢です。
73歳の人というと、どんな人が浮かびましたか?会社勤めの人間なら、とっくに引退している年齢です。しかも、平均です。もっとご高齢で、現役で活躍中の職人さんがもいらっしゃるのです。
現状のままでは、数年後にはもっと平均年齢があがり、ゆくゆくは小野市の刃物職人さんは一切いなくなってしまう。そうして最終的には特色を持った貴重な産地が、産地ではなくなってしまうのではないか。様々な現場を訪問させていただきましたが、これまでで一番、存続の危機を感じました。
現場で働く人たちは、その危機をもっともっと身近に感じながら、現在のままでは伝える相手がいない技術をさらに磨いているのです。
~播州刃物を繋ぐ
ーこのままでは技術が伝承される前に途絶えてしまう、そうならないためにはどうしたらいいのかー
小野金物卸商業協同組合が出した答え、それが、外部の風を入れるということでした。小野市出身のデザイナー小林さん(シーラカンス食堂)の噂を聞き、小野市の刃物づくりのプロデュースを依頼したそうです。
シーラカンス食堂 代表/デザイナー 小林新也さん
依頼を受けた小林さんは、喜んでその依頼を受けました。生まれ育った場所、小野市の活性化の想いに通づるところは多かったと思います。こうして、小林さんのプロデュースのもと、播州刃物はこれまでになかった外部の視点で、新しい取り組みを始めました。
播州刃物は「101」だ
依頼を受けたデザイナーの小林さんはプロデューサーとして小野で作られる刃物を「播州刃物 / BANSHU HAMONO」ブランドとしてリブランディングすることにしました。
その取り組みの代表的なものが播州刃物ブランドの中の「BANSHU HAMONO 101シリーズ」です。
小野金物卸商業協同組合の理事長田中さんと小林さんが今後の取り組み方を相談していた時、小林さんから「播州刃物は完成されている」と言われたそうです。つまり、今までの長い歴史の中で洗練された刃物を、あえて作り直す必要は感じないということ。
ー長い歴史の中で完成された形に1%の新たな彩りを加えましょうー
そして生まれた101シリーズ。個人的にこの100%+1%という考え方がすごく好きです。プロデューサーの小林さんの取り組む姿勢と想い、播州刃物の質の高さ、様々なものが伝わってくる本当に素敵なコンセプトだと感じます。
形状は変えることなく、カラーにだけ少しデザインを加えた握り鋏や裁ち鋏が誕生しました。実は、鋏に色を付けるということは、職人さんや刃物業界の方では思いつくことがない発想だったそうです。たった1%の変化、しかし今まで1200年ある播州刃物の歴史からすると全く異質の1%の変化。この変化はもしかすると小野市の刃物づくりを全く変えてしまう1%になる可能性を秘めています。
海外へ 「Across the sea」
ブランドイメージを一新する中で、プロデューサーの小林さんが重要視していることは、海外展開だそうです。小野金物卸商業協同組合や理事長の田中さんからすると、全く想像だにしていなかった展開で、当初は戸惑いもあったそうです。しかし「小林さんが言うのだったら・・」と任せてみることにしたそうです。
結果、海外からの反響は少なくなく、小林さんとの取り組みを始めて3年、今では海外からの問い合わせも増え、NY・ロンドン・パリ・アムステルダムで展示会も「BANSHU HAMONO」は大変好評だそうです。
日本だけでなく世界中で求められる播州刃物。産地で感じるほどの大きな変化はまだないそうですがこの先世界の「BANSHU HAMONO」になる日も遠くはないのではないでしょうか。
「後継者」
播州刃物ブランドを広めると同時にとても重要な課題、後継者問題。これについては、鍛造から握り鋏を作ることができる世界で唯一の職人である握り鋏職人の水池長弥さんにお話をうかがいました。
BANSHU HAMONO 101シリーズの鍛造握り鋏を作っているのは全て水池さんだそうです。メディアからの取材を受けることも少なくない水池さんの技術は、変えがきかない唯一無二のものです。
写真のお顔からは全然見えませんが、水池さんも70歳オーバーの職人さんなんです。早く後継者を見つけないと、水池さんに万が一があると鍛造から握り鋏を作れる職人さんがいなくなってしまう。技術を受け継ぐにも何年も修行が必要なのでなおさらです。
ここで鍛造を行う。熱で赤くなった部分がよく見えるよう作業場は暗い
小野金物卸商業協同組合もプロデューサー小林さんも、後継者探しにとても力を入れています。しかし「まだまだ受け入れ体制など課題は多い」と水池さんはいいます。
確かにお話を聞いていると現実的に後継者問題を解決するためには市など行政のフォロー体制、バックアップなどが必要だと感じる面は多いです。とはいえ、少しづつですが弟子入り志願者も出てきているそうです。
播州刃物に小林さんがもたらした1%の変化が、後継者問題にも変化を生み、明るい兆しが見え始めていることは確かです。現在も水池さんだけでなく播州刃物として引き続き後継者を絶賛募集中です。
もちろん、一人前の職人になるということは簡単なことではありませんが、少しでも興味があれば一度話を聞かれてみる価値はあると思います。播州刃物の後継者、ご興味がある方がいらっしゃればご連絡いただければご紹介もさせていただきますのでご連絡くださいませ。
大切にしたいもの
お金を払って、ものを買う。そのことで、どれだけ世界が変わるでしょうか。「鋏なんて100円で買えるしそれでいい」確かにその言い分も理解できます。しかし、当店のコンセプトもそうですが、長く使えるものはたしかに価値があるのです。
ものを作る人の想い。使い重ねていくうちに芽生える使う人の想い。そしてメンテナンスをしながら次の世代にいいものをつなぐという行為。ものに込められた意味を感じながら大切に使い重ねることが、日本の文化を大事にすることにつながります。
もう一度言います。100円の鋏も、ものを切るには十分です。が、使うものを選ぶという感覚、それが今一度見直されることで、播州刃物の産地活性化ひいてはその後継者問題すら解決できるものだと思います。
播州刃物の取材にご協力いただいた皆様、お忙しい中本当にありがとうございました。
作る風景
鍛造から握り鋏を作る職人水池さんの仕事風景
播州刃物 BANSHU HAMONOの
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