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人生を豊かにしたり、 暮らしの大切なひとときのために。 人生にはいろいろな「食べる」がある。 「食べる」はいつも楽しくあってほしい。 tak〔タック〕は、山中漆器の職人技と、 最先端の技術の融合によって実現したフードウェアブランドです。 |
今回取材にうかがったのは、石川県の温泉地、山中温泉です。
「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」に並ぶ、「木地の山中」と称される石川県を代表する漆器産地。
産地としての歴史は、400年前の安土桃山時代までさかのぼると言います。
こうした漆器と言えば、木地の器に職人が塗りを施してでき上がる、伝統工芸のイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、今回ご紹介するのはプラスチックの素地にウレタンの塗装を施す近代漆器。
プラスチック製の食器と聞くと、安価な大量生産品に感じられるかもしれません。
ところが山中地方の漆器は、素材は現代的ながら、産地の伝統を受け継ぐ職人の手作業によって支えられています。
今回ご紹介する「tak.」シリーズは、山中漆器のなめらかな塗装を活かしたフードウェアブランド。
外側と内側が丁寧に塗り分けられた優しい肌触りは、よくあるプラスチック製品とは一線を画す質感です。
可愛らしいデザインだけでなく、食器洗い乾燥機や電子レンジにも対応。こどもにも大人にも扱いやすい食器です。
そんな見ているだけで口元が緩んでしまいそうな可愛らしい商品を手がけているのが、株式会社竹中さん。
伝統の産地を守りながら、時代の変化に対応してきた、その生産現場をご紹介いたします。
「元々30年以上漆器の仕事に関わってたんですが、飲み友達だった社長に、15年ほど前にヘッドハンティングされたんです(笑)」
そう笑顔で語るのは、今回、我々を案内していただいた株式会社竹中の表紙口さん。
まずは産地の歴史を教えていただきました。
山中漆器が誕生したのは今から約450年前の安土桃山時代。
器作りを生業としていた木地師という職人たちが、山中温泉の上流に定住し作りはじめたろくろ挽きが始まりとされています。
以降、他の地域の漆塗りや蒔絵の技術を取り入れて発展してきました。
ろくろを使って削り出された繊細な木地と漆塗りで作られる伝統漆器は、現在でも高く評価されています。
1925年に創業した株式会社竹中さんも、創業者は伝統漆器の職人だったそう。
「うちも、初代は木製の漆器の塗師屋だったんです。初代社長が自分で塗って、自分で売りにいっていました」
産地に転機が訪れたのは戦後まもない昭和30年代。
漆器の素地としてのプラスチックの可能性に着目した漆器メーカーが、プラスチックに塗装を施す近代漆器の生産へとシフトを始めました。
プラスチックの成形技術の発展とウレタン塗装による大量生産が可能となり、産地はバブル期に最盛期をむかえます。
「当時はギフトやブライダルの商材が中心でした。ティッシュケースやキーボックスなど、いろんなものをやってました。食器よりも単価が高くて、産地全体で売上が急上昇したんです」
バブル崩壊をきっかけに、ギフト・ブライダルの需要は年々縮小。それでも、産地としては依然として売り上げの多くを占めていたと言います。
そんな中、株式会社竹中は、他のメーカーに先駆けて自社製品の企画・製造へと転換。他の企業に先駆けて、量販店の市場を開拓しました。
その後販路を拡大し、今では自社製品だけではなく、大手小売店の製品をOEMで手がけています。
こうして生まれた近代漆器の最大の魅力は、単なるプラスチック製品には無い独特ななめらかさを持つ質感です。
プラスチック成型による多様なデザインに、内側と外側を丁寧に塗り分ける職人の技術が掛け合わされて、近代漆器の特有の風合いが生まれています。
また、食器としての実用性にも非常に優れています。
「軽くて割れにくいし、重ねてコンパクトに保存できます。耐熱性もあるのでレンジや食器洗い洗浄器でも使用できます。私も家で使っています」
tak.は近代漆器が持つ魅力が、「食べる」時間の楽しさを彩るフードウェアとして、ぎゅっと詰め込まれた製品です。
自然と笑顔になってしまうようなかわいらしさを持つtak.。 誕生のきっかけは、デザイン会社との出会いだったそう。
「もともと、漆器の技術を活かした新しいアイデアは、常に自社で模索しています。そうして情報収集をしているときに、あるデザイン会社との出会いがありまして。それがきっかけで商品開発が始まりました」
デザイン会社との協働で山中漆器の持つ魅力を再定義する過程は、
「自分たちだけでは思いつかないようなアイデアばかり」だったと振り返る表紙口さん。
そして、ディティールを一切妥協しないデザイナーからのアイデアに応えるように生まれたのがこのKIDS
DISHです。
「商品の化粧箱や塗装の色指定まで、細部まで非常にこだわっていただいただけに、実現するまで苦労しました。そのぶん、お客様からの反響もびっくりするほど良く、うれしかったですね」
発売したKIDS DISHは、instagramの口コミを発信源として大ヒット。
多くの方が可愛らしい食卓の様子をアップロードしています。
産地の外側からの意見を積極的に取り入れて物作りをしていく姿勢は、先ほどの山中漆器の歴史とも通じる部分があるように感じます。
ここからは山中漆器の製造工程をご紹介していきます。
山中漆器の産地では、それぞれの工程を専門の業者・職人に割り振りする分業体制が取られています。
「われわれ株式会社竹中は、漆器メーカーとして自社商品を企画開発しています。製品の形状を考えて、成形メーカーと共同で金型を作ります。
その金型を使って成型工場で製造してもらいます。そこでできあがった素地と呼ばれるプラスチックの製品を、塗師屋(ぬしや)さんに指定の色で塗装をしてもらいます。
絵をつける場合は、蒔絵屋さんによってシルクスクリーンなどでつけてもらいます」
そこで、実際の製品の流れに合わせて、製造現場を見学させていただくことになりました。
最初に訪れたのは、竹中さんと提携するプラスチック成形工場です。
この工場では、竹中さんが設計した金型を元に、漆器の素地となるプラスチック食器を製造しています。
数年前に新築されたという工場はとても綺麗で、よく整理されています。品質の高さから、大手外食チェーンの食器も製造しているのだとか。
そんな食器の原料になるのが、こちらの樹脂ペレット。ザラメのような見た目をしてますね。
塗装の下地として最適な性質を追求した結果、PETとABSという2種類の樹脂を配合したものを使用しています。
こうすることでプラスチックと塗料の密着度が高まり、塗装が定着しやすくなるのだとか。
また、この混合樹脂で作られた食器は耐熱温度も高く、電子レンジや食器洗い洗浄器で使用することもできます。
原料はパイプで吸い上げられ、乾燥工程を経た後に、プラスチックを成形する機械に送り込まれます。
原料はどろどろに溶かされた後に、金型に流し込まれて成形されます。
こちらは、成形に使用する金型たち。
金型はノンブランド製品用のものもありますが、竹中さんの場合は自社製品のためにオリジナルの金型を数多く製造し所有しています。
金型への投資は、オリジナル製品のラインナップに直結することもあり、竹中さんの強みのひとつでもあります。
こうして出来上がったプラスチックの素地は、竹中さんと提携する塗装工場へと納入されます。
次に訪れたのは、漆器に塗装を施す塗装工場です。
山中漆器の産地では、塗装の職人さんは塗師屋と呼ばれています。
多くの職人さんは、家族単位で仕事をしているそうですが、この工場は会社組織。その設立背景には、産地を存続させるための思いがありました。
「ここ10年ほど、塗りの職人の人手不足が深刻な問題だったんです。後継者不足でもありましたし、塗りが間に合わず注文を逃す状態が続いていました。
そこで、竹中の社長と成形メーカーの社長の二人で、共同出資でこの塗装工場を立ち上げました」
塗装ブースでは、ろくろにセットしたプラスチックの素地に、茶色のウレタン塗料を素早く吹きつけていきます。
ろくろを回転させながら、外側から内側へ全体を塗ったあと、細かい部分を仕上げます。1面を塗り終えるまでの時間はわずか数秒といったところでしょうか。
「彼はここに入社してから修業を始めましたが、もういっちょ前の職人の動きになってますね。
さらっと塗っているように見えますが、埃も入っておらずしっかり均一に塗られています。
スプレーガンのこうした技術や、塗装ムラを見分ける目は、見よう見まねでは絶対できません」
この工場では、職人による手塗りだけではなく、塗装用のロボットも導入しています。
ロボットのほうが人間よりも効率よく製造できそうですが、実はそういうわけでもないのだとか。
「ロボットで塗る場合は、塗り方をプログラミングする必要があるのですが、どれだけ細かく設定しても、人間の手には到底かないません。
たとえば、こうした持ち手のあるマグカップでは、持ち手の内側も塗る必要があります。こういう形だとロボットでは塗れないんです」
こちらは手でろくろを回しながら縁を塗る作業。
内側の白も、スプレーで塗り分けられています。現場の職人さんによると、この白を塗るのがとにかく大変なのだとか!
「白い素材に白を塗るのは、本当に難しいんですよ。塗ったところとそうでないところが分からないので……塗った瞬間の艶で見極めているんです」
山中漆器の魅力である可愛らしいデザインを支えているのは、熟練の職人による手作業だと改めて分かるエピソードです
塗り終わった漆器を乾燥機で焼き付けをおこない、塗装を定着させます。
最後に、検品をおこなってクリアしたものを、次の工程へと引き継いでいきます。
塗装が終わった漆器は、最後に蒔絵職人さんの元で、ロゴや模様を印刷します。
この蒔絵はシルクスクリーン印刷です。 木製の版の中に漆器の位置を合わせて、ロゴを刷り込んでいきます。
一見すると簡単そうですが、この工程も長年の経験があってこそ。
「最低5年は修業しないと、話になりません」と、表紙口さんは語ります。
シルクスクリーン印刷で使う塗料は、それぞれの職人さんが自身で調合していくのだとか。
特にtak.ブランドはデザイナーからの色指定が厳しく、熟練の職人による色再現技術が必要不可欠だと言います。
このロゴの場合は1色ですが、版を重ねて数色を塗る場合もあるため、非常にこまやかな作業が求められます。
今回取材させていただいた職人さんは、産地でも特に腕利きの職人さん。
仕事が集中する時期は家族総出で作業することもあるそうです。
産地の熟練の職人さんが一丸となって、ひとつの食器を作り上げていく山中漆器。
それだけに、産地を牽引するメーカーとして、職人を含めて守っていく姿勢が大切だと言います。
「得意先様と話していると、どうしても価格競争の話になってしまいます。しかし、私たちメーカーは社員の生活を保証するのと同じように、仕入れ先の職人さんの生活も守らなくてはいけません。」
「近年は、社長が漆器組合の理事長になりまして、組合の仕事にかなり力を入れています。
自分たちの会社だけを見るのではなく、産地全体を見る視点に変わっています。
塗装会社の立ち上げも産地のためでもありますし、組合の若手を集めて、産地のブランディング委員会を発足しています」
400年前から、新しい技術を取り入れて発展を続けてきた山中漆器。
木地からプラスチックへ、漆からウレタン塗料へ。
職人が担いで町に売りに行っていた漆器は、いまやinstagramをきっかけに日本中で話題になるフードウェアになりました。
時代の変化を見据えて、産地の技術を結集した製品を作りだしていく。
物作りの技術だけでなく、温故知新のマインドもまた、山中漆器に受け継がれてきた伝統のひとつなのかもしれません。