ミマツ工芸 / M.SCOOP

M.SCOOP / ミマツ工芸
ミマツ工芸 / M.SCOOP
佐賀県南部にある筑紫平野にミマツ工芸の工房はあります。 家の中で、埋もれがちなアイテムに居場所をあげよう。という想いからM.SCOOPは生まれました。 「置く」という些細な動作を、愉快なワンシーンに変える。シンプルで上質なものを作り続けています。


ミマツ工芸 / M.SCOOP 取材記


古来から日本人の暮らしと共にあった木材。機能性だけでなく、木材ならではの温かさや安心感が私たちの生活を支えています。
佐賀県と福岡県の南部にまたがる筑紫平野の中心に位置する大川は、日本最大の家具生産地。今回は木工業が集まる大川の地で、暮らしに心地よさをもたらす木のプロダクトをつくる「ミマツ工芸」にお邪魔しました。
「ミマツ工芸」は現在、三つのブランドを持っています。大切なツールに置き場をつくる「M. SCOOP(エムスコープ)」、国産の杉の木目を生かした日本伝統の模様の贈り物「NENRIN(ネンリン)」、暮らしに花や自然の表情を取り入れる「GREEN(グリーン)」。
家具のまちで家具を大量生産していた時代から、「つくりたいものをつくる今」にどのように至ったのか。ミマツ工芸がたどってきた足あとを紹介します。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
8月上旬の佐賀県神埼市。「ミマツ工芸」は青々とした田んぼに囲まれていました。
取材に応えてくれたのは、代表取締役社長の實松(さねまつ)英樹さんです。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
ショールームに入ると、洗練された木製品が棚に陳列され、心地の良い木の香りがしていました。


大量生産の時代から自分が作りたいブランドへ
「ミマツ工芸」は實松さんの父親によって昭和47年(1972年)に創業しました。シンプルな家具が好まれる現在と違い、当時はヨーロッパ風の装飾が施された家具の需要が高い時代。大川家具を分業で作る地元で家具がどんどん売れる時代の流れに乗り、菓子職人をしていた父親は木製のテーブルの足を作るための会社を立ち上げました。
一帯では木工工業がどんどん栄えていきました。元はテーブルの丸い足だけを作っていた父親の会社も工場を拡大して大型の機械を導入し、婚礼タンスの引き出しを作ったり、取手や枠も作ったりするようになりました。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
實松さんが若い頃は、朝の8時から夜中の12時まで働くような時代。そこまでしないと生産が追いつかないほどの勢いでした。ただただ発注された部品をがむしゃらに作る日々。お客さんの顔が見えない商売に「こんなに大量なものがどこにいくんだろう」「本当にどこかの家に入っているのか」「いつかは仕事がなくなるんじゃないか」という疑問や不安があったそうです。
30代になり、實松さんは会社の将来を考えるために先進地の視察などいろんな場所に出かけ、いろんなものを見て回りました。「うちの会社だったらどんな魅力あるモノがつくれるのか」。考えながら、2006年40歳を機に自社製品開発事業をスタート。2008年に自社ブランド「M. SCOOP」を立ち上げます。
初めはバイヤー主体で「こんなものなら買いますよ」との言葉を受け、iPodやiPhone関連の商品を開発し作っていた實松さん。「自分は、どうかなー?と思っても買い取ってくれるからしょうがない。そんなものづくりでいいのか」。そんな疑問が湧いて、「自分が欲しいと思うモノや、大切な人の贈り物にしたくなるモノを作る」ためにリブランディングも着手しました。これまでは作ることに徹していた實松さんですが、リブランディングを行うと決めてからは、自らお客さんとの窓口にもなりました。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
当時はスティーブ・ジョブスが活躍していた時期。「あんなスマートなもの(iPhone)を持って軽やかに仕事をこなすような男になりたい」という憧れから「そんな男性になりたいなギフト」「かっこいい男性になってよギフト」をつくる方向性が固まりました。


国と時代を超えて愛されるものに心地いい置き場所を
「iPhone、腕時計、メガネ、ペン」。この四つは實松さんが毎日必ず会社に持っていくもの。さらに共通するのは、どれも實松さんが好きなものであるということ、いつの時代も変わらないであろうということ、万国共通であるということ。「変わらないものを絶対的に永久的に使っていきたい」という想いで、この四つに関連するものを作ることにしました。
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デザインはプロにお願いし、實松さんはそれを形にする。当初開発会議の際、作りたいモノを説明しても「売れ筋じゃないよね」と言われることもありました。特に、腕時計置き。實松さんは以前から、机にわざわざ卓上時計を置くのではなく、自身の腕時計をデスクウォッチにしたいと思っていた気持ちとイメージを説明し「売れなくてもいい、同じように思っている人が多くなくても何人かいるはずだからそれでいい」と自身の想いに沿い、開発をスタートしました。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
そうして生まれた腕時計スタンド「D. Watcher(デーウォッチャー)」、今ではブランドのベストセラーです。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
「メガネ置きは、ミマツ工芸の原点であるテーブルの足をイメージしました」と、デザイナーの一言に、「すごい、さすがプロだ!」と感じたそうです。色は何年かに一度、「その時に感じた色」をリリースしています。写真に写っているのは「地域の色」。一つひとつ絶妙な塩梅で調合し、塗装は地元の信頼できる会社にお願いして表面の質感にまでこだわっています。
「僕らが良いと思うものを、多くなくても共有できる人に届けていければいい」という納得できるやり方で、「その時に出会った人や場面、感じたもの、大切なものから新しいものが生まれる」と實松さんは語ります。


ヨーロッパで与えられた課題から生まれた「NENRIN」
2015年と16年。世界に進出したいという思いもあり、以前から「世界で一番魅力的な展示会」と聞いていたパリで開催される「MAISON&OBJET(メゾン・エ・オブジェ)」に「M. SCOOP」を出展しました。
一つ一つ手を抜くことなく、どこから見てもきれいに仕上げた自社の製品たち。来場者がペン立て一つにしても隅々まで注目してくれたのが自信につながったと言います。「自分で会場を見て回っても『僕らが作っているもののクオリティーは高いんだ、いいものができているんだ』と感じることができました」と實松さん。一方で、日本で販売している価格と海外の人が出そうとしてくれる何倍もの価格のギャップに課題を感じたそうです。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
もう一つ課題になったのは「なぜアメリカの木を使っているのか」という来場者からの問い。地元の家具業界では九州にない広葉樹をアメリカから輸入するのが当たり前でした。「日本には木が生えてないの?」とまで言われてしまい、「自分の地域に何があるか」「日本らしいものはなんなのか」という模索が始まります。
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模索を始めて思い出したのは、1998年から實松さんがコツコツと作り直売していた年輪時計。佐賀県産の杉の木目を生かした丸太時計で、退職や還暦、米寿などの節目に、その人の歩みをたたえて贈るメッセージ性のある商品です。切り倒してから加工するまでには一年ほど上手く乾燥させなければならないため、作れる数はかなり限られていましたが、お客さんの顔が見えない商売をしていた時代でも、唯一お客さんと直接やりとりをして「買っていただいた喜び」と「自分の仕事が本当に喜んでもらえている喜び」を確認できる商品でした。
ただ、佐賀の杉の木は形も色もバラバラで「シンプルで美しいプロダクト製品が生み出せるような素材ではないと思っていた。」と實松さん。そんな時に「年輪経営」を掲げる大手自動車メーカーから自社の森の杉を使って毎年製品を40、50個つくってほしいという依頼を受けます。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
「その時に向こうから送られてきた木が、ぎゅっと小ぶりできれいな丸太でした」。初めてここまできれいな杉を見たという實松さんは「こんなきれいな杉だったら何かプロダクトができるんじゃないか」と、新たな「年輪時計」プロダクトに取り組む事にしました。
こうして試行錯誤しながらたどり着いたのが、国産の杉の木目を生かして日本伝統の吉祥文様に仕上げた新しい年輪時計です。
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「一本の木からつくる」ことに意味がある従来の年輪時計の思いはそのまま、さらに「おめでたい」ことを意味する日本伝統の紋様を自然の木目で表現することで、杉の美しさと日本らしさがつまった商品のブランド「NENRIN」が完成しました。現在、年輪時計は商標登録されています。
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足元にある楽しさを
一方で「GREEN」は、一輪挿しを生活に取り入れるためのブランドです。テーマは「日常の足元」。野草が好きな實松さんが、野草があることで感じる「いつも行き来する道でのワクワク」を共有したいとの想いから生まれました。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
「野草は、風に揺れる細く繊細な茎や葉っぱが絶妙に美しく、つい眺めてしまう。しかしこれは流石に作れない!だったら、それに合うものを開発し心地良い暮らしの場をつくろう」という想いで商品ができています。
使われる木材は、自然にしかない個性や表情、美しさを代表するものたち。そこに、一輪挿し用の試験管などが付いています。
展示会がある時には、東京でもどこでも街中を散歩して自分でとった野草を持参しています。「ビジネススーツを着て、野草を持って歩いてるような男性、そういうスタイルいいと思いません?」と實松さんは笑います。
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杉の美しさを最大限に引き出す選別
ここからは、工場内を見学させてもらいましょう。
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
ミマツ工芸では、實松さんが試作品をつくった後、従業員に一つ一つ作り方を教えながら切る、貼る、組み立てるなどの作業を任せます。「同じものを作れないと製品化できない」。再現性が求められるため、試作品から製品化するまでに数年かかることもあるそうです。
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木の選別は全て實松さんが担います。
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こちらは年輪時計用に自社でブロックにした杉。ブロックにするのも精度を出すのが難しい作業です。實松さんは木ごとにまとめられたブロックを指差しながら「これはきれい、これはきれいじゃない、これは美しい絵にならない、この赤みはきれい」と一瞬で全体のイメージまで見極めていきます。素人の目には全てがきれいに見えましたが、こちらには分からない絶妙な色や木目の違いがあるようです。面によっても表情が違うため、一番美しい吉祥文様になるよう「市松」にするのか「波文」にするのかなどを決めていきます。
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世の中には、ガラスや金属等、素材の良さを生かした魅力ある製品がたくさん存在しています。「僕は、木という素材が持つ個々の表情の違いを最大限引き出した美しいモノが、僕のつくりたいもの」と實松さんは語ります。


作家ではなくインダストリアルの仕上げ方
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
こちらは「M. SCOOP」のペン立てにもメガネ置きにもなる商品。お客様の要望から生まれました。ここから内側にフェルトを貼ったり、塗装をしたりして仕上げます。
木の削り方は素材に合わせて調整します。「試作品を一つ作る際は、極端な話一個一個調整すれば形になる。しかし、僕らが作るのは均一な精度を保った製品」と實松さん。「『削った状態が仕上がり』ぐらいのレベルにしなければ整わない」、「あとで補修するという気持ちは基本持たないようにしたい」と話します。
特にこの商品は、縁の数ミリの幅を均一にするのが、デザインのポイント(生命線)です。いくつもの工程を経て、ようやくこの形になるそう。磨きの工程でも、この絶妙な角を生かすのがポイントです。
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こちらが完成品。このような細かい積み重ねが、一目できれいだと思える商品につながっているのですね。
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取材を終えて
M.SCOOP / ミマツ工芸 取材記
ペン立て一つにしても「多分こんな(こだわって)やってるのは珍しいかもね」と嬉しそうに言う實松さん。自身が本気で楽しんで納得できる仕事をしているのが伝わってきました。
「自分がどうありたいか」「どうあったら自分がもっと心地いいのか」。
注文された数をがむしゃらにこなしていた下請け時代と打って変わり、實松さん自身が変わらないものに目を向けて、心地よいものづくりを追求するようになりました。そうした中で、その時々の出会いや感性が商品に生かされているからこそ、私たちの暮らしにも心地よさをもたらすものができているのだと感じます。
「生み出す製品は、永久デザインの想いを持って作っていきたい。常に改良を続け、もっともっと本物の機能を追求していきたい」と語る實松さん。これからも目が離せません。
實松さん、ミマツ工芸のみなさま、長時間にわたる取材にご協力いただき、ありがとうございました!






ミマツ工芸 / M.SCOOPの商品一覧


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