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工房アイザワ
日本の伝統工芸を生かす道具を作ることを掲げる新潟県の燕市の老舗道具店。モノがなぜ存在するか、なぜ必要か。常にそのものづくりの原点に忠実に向き合います。機能美を追求し、装飾性を削ぐことでモノに生命を吹き込む。
それが工房アイザワのモノ造りとその姿勢です。
工房アイザワ 取材記
金属加工の集積地で知られる新潟県の“燕三条”。特に燕市が作るスプーンやフォークなどのカトラリーは日本国内シェア95%を占めています。
今回は、そんなものづくりの町で大正11年に創業し、長く調理道具を作ってきた「工房アイザワ」にお邪魔しました。
取材に応じてくださったのは5代目の社長で代表取締役の相澤保生さんです。
工房アイザワさんは業態でいうと問屋さんにあたります。実際に製造されるのは同産地のメーカーさんたちです。最近ではメーカー発のブランドが多く見られるようになりましたが、その中でも工房アイザワさんが存在感を持っているのはなぜなのか?
日本いいもの屋としても基本的にはお取り扱いさせていただくブランドはメーカー発のものが多いのですが、なぜ工房アイザワさんをご紹介したいと思うようになったのか?今回の取材ではそれらの理由もわかっていただけると思います。
機能に向き合うことが出発点
工房アイザワの商品は、時代を超えて普遍的に使える道具が並びます。その背景には、常にそのモノが「なぜ存在するのか」という問いがあるようです。
相澤さんは、商品を作る上で「まず一番最初にはっきりさせないといけないのがその“機能”」と断言します。
「商品である前に“道具”。機能を曲げてしまったら道具にならない。かっこよさやデザインを先に追求すると、その道具がなぜ存在するかというメインのところがぼやけてくる」
そのため開発の際はデザインやシルエットから入らず、外部のデザイナーさんも基本的には頼まないのだとか。
商品の企画は全て相澤さんが担当し、「なぜその商品を作るのか」と機能から考えます。出発点はあくまで「機能」。
用途に合った材料は何か、どうやったら使いやすいか、あるいは持ちやすいか…。そのようなことを追求した結果、工房アイザワの特徴である機能的で丈夫な商品が誕生しています。
「その分シルエットはかっこよくないと自分では思っているんですけどね」と笑う相澤さん。
商品に惹かれるのは、きっと必要な機能が備わった“機能美”があるからなのでしょう。なにをもって“かっこいい”のか?なんとも基準が難しい問題ですが、私は工房アイザワの商品はかっこいいと感じています。
“機能美”がある商品は自然とかっこよくなる、のかもしれませんね。
時代を越える道具たち
工房アイザワは相澤さんの祖父によって大正11年に創業。地方問屋として始まりました。隣町の三条市で作られた農作業の道具をはじめ、人々が必要とするものを売っていました。
ものづくりを始めたのは3代目の相澤さんの叔父の代から。玄能(金槌の両方平たいもの)やカンナ、キリといった大工道具を作っていましたが、お客さんに「鍋を作ってくれ」と言われたのをきっかけに調理道具も作るようになったそうです。大工道具については電動化が進む時代の中で次第に作るのをやめ、調理道具にフォーカスするようになりました。
元々、会社がある燕市はキッチン用品の生産が盛んな街だったこともあり、調理道具を約50年作り続けて現在に至ります。
多くの店が時代とともに立ち行かなくなる中で、相澤さんは長続きする理由を「(商品を)道具だと思っている」からだと語ります。
「道具はいつの時代も道具。行平鍋だって江戸時代からあの形が続くのは、やっぱりあの形が正解なのかなって思う。デザインから入らない分、派手さはないし、カラフルさもない。よく言えばシンプルですけど悪く言えば単純。例えそれに飽きてかっこよさを求めても、結局元に戻ります。結局こいつらが正しいんでしょうね」。
この部分はとても工房アイザワさんらしい部分。追求した先にやはり同じ道具がある、こうしたものづくりのプロが試行錯誤しながら迷いながら行き着いたものを私たちが手にすることができる。なんだかそれだけでも贅沢な気がしてきます。
原点を見失わない。
コロナ禍、燕市では沢山のアウトドア商品が生産されました。コロナ禍でも楽しめるキャンプなどのアウトドアが流行し、燕市のメーカーさんや商社さんも売れるのであればと様々なアウトドア製品を作られたそうです。
確かに当時アウトドア商品が世の中に沢山出てきてキャンプなどのアウトドアブームがあったような印象です。現在でもキャンプなどアウトドアをする人は沢山いますが、一時期のブームのような時期は過ぎたように思います。
当時、相澤さんは周囲の会社がアウトドアブームに乗っていく中、アウトドア道具を作ることはされませんでした。
「たしかに魅力には感じました。でも、これやってその先どうするんだ?と考えるわけです」
「自分たちは何のためにやっているのか、会社をでかくしたいと思えばそれなりの方法があるけれど、規模は現状でもいいんだけれど納得したいものを作りたいという想いが強いんです」
相澤さん自身、流行りの波に乗ることは否定されているわけでは無いのですが、乗るのであれば乗り続ける必要がある。「でも少なくとも自分にはその才はないです」と、相澤さん。
自分自身をよく知り、会社の目的を見失わない。時代の流れや流行り廃りがあるなかでも、こうした原点を見失わない姿勢が、時代を超えて普遍的に使える道具を作り続ける工房アイザワさんを作り上げているのですね。
工程一つに妥協しない
商品のクオリティーの高さも工房アイザワの魅力です。100円ショップに調理道具が売られているように世の中には安価な製品が溢れていますが、「納得できる道具」を作ることに妥協しません。
例えばスプーン一つにしても、写真にある6工程以外に、倍以上もの工程があるとのこと。工程を省いたり、材料の質を落とすこともできますが、一つでも省いたらクオリティが大きく落ちてしまうそうです。
安く作ろうと思えば研磨だけでも4工程、5工程を省けるそうですが、考えの根底には「どうしたら道具として使いやすいか」という発想があるため「価格云々ではない」と。
実際にスプーンのようなカトラリーでは、バレル研磨(ドラム缶のような設備に石のようなビー玉のようなものの中にいれて回して研磨する工程)を1回で終えるのか、何度も行うのか。これによって仕上がりが全く変わってくる。 省けるけれど省かない、これがとても大事なポイントなのですね。
そんな相澤さんの1番の理想は「親から子へ、ずっと使い続けていくこと」だそう。カトラリー一つにしても引き継いでもらうことを考えるほどにこだわりをもっています。
価格でいえば安価なものはいくらでもある現代、なぜこの道具を使うのか・選ぶのか。すごく大事なことを教えられました。道具を選ぶ時「子供に使い繋げたいか?」と考える発想は大切なのかもしれません、使い繋げたい道具の後ろには必ず素晴らしいものづくり・作り手が存在します。
製造現場へ、職人の絶妙な手加減の積み重ね
燕市は分業が盛んな町。工房アイザワは自社に製造現場を持たず、理念を理解してくれる地場の協力工場や各地の職人と連携しながら商品を作っています。
金属やステンレスは、やはり金属加工が得意な燕市で。必要な金型などは工房アイザワさんがコストを負担します。
その他、竹の商品は竹細工で有名な大分県別府市で作ってもらったり、漆は漆が得意な石川県の片山津にお願いしたりと、日本各地のその素材が得意な地域と手を組んでいます。自社に現場がない分、いろんな種類の商品を作れることが強みになっています。
今回はその中でも燕市のステンレスの鍋やタンブラーなどを加工している工場を案内してもらいました。
作業は職人が機械に向き合い丁寧に手作業で進めていきます。一見簡単そうに見える作業も、実は職人の絶妙な手加減とちょっとした工夫の積み重ねがあり、他に誇ることのできるクオリティが保たれています。
例えば鍋の取手。
機械で曲げる前に一つづつ人の手で油を塗ります。そうすることで金属に傷をつけずに曲げることができています。
また、こちらは製品の蓋になるパーツ。
素人の目ではわからない金属の目の方向を瞬時に見分け、その方向に沿って丁寧に機械で磨きをかけてツヤを出していました。
これはあくまで1回目の研磨。すでに綺麗に見えますが、この後の工程で2回目の研磨をするそうです。その時の金属の生地によっては、さらに工数が増えることもあるそうです。
こちらはケトルの持ち手をつける工程です。製品に傷がつかないようにカバーをしながら丁寧に作業をされていました。
このように機械の作業に「人の手を入れたい」という思いは相澤さんの先代たちから引き継がれる思いです。そのような思いが工房アイザワの商品のちょっとした温かみや自然な形につながって、ここまで続いているのですね。
取材を終えて
燕市をはじめとする各地の工場とコミュニケーションをとりながら、長く支持される商品を作り続けてる工房アイザワ。
シンプルに見えてもどこか他とは違う、一線を画した雰囲気がありますが、原点からぶれず、使いやすい道具を作るために細かい部分も妥協しない姿、作り手の小さい気遣いを積み重ねる姿をみて納得しました。
相澤さん、工房アイザワ、工場のみなさん、取材に協力してくださりありがとうございました!
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