『ミルクパン リコッタ』

ミルクパン リコッタ 4th-market



 あれほど祝福され、嬉しかった初めての子供なのに。

たった生後6ヶ月で、人に預けることになるなんて。

「やっぱり自分で見てあげたいなぁ」

出産前から、元の職場に復帰することは決まっていた。

職場内に託児所があることが、うちの会社の自慢だった。

なのに、いざ、預けるとなると。しかもかわいそうにまだたったの6ヶ月なのだ。

やっとお座りが出来るようになった息子が、

落としたおもちゃを追って後ろに倒れた。

途端、顔を真っ赤にして泣き出した。

わたしも泣きたい。

この子のそばにいつでも寄り添って、いつまでも一緒に泣いていられたら。

脇を抱いて泣きじゃくる顔を見ていたら、下の歯が生えていることに気づいた。

ああ、いつの間に。

そうだった、もうとっくに、離乳食を始めてもいいんだ。

買い揃えた離乳食セットを消毒し、手頃な鍋にお米を入れる。

大さじ1、そしてカップ1の水。

粥を作る間にも、彼は泣き止んでまたおもちゃを手にしていた。

そしてまた、後ろに転び、どてんと頭を打った。

駆け寄って抱き上げると、今度は泣いていなかった。

手にしっかり握られたおもちゃをわたしに差し出し、ただにこにこと笑っていた。

ミルクバンの隙間から湯気が上り、たっぷり水を含んだ粥が出来上がる。

つぶして、昆布だしで少しだけ風味をつける。

大丈夫、わたしがずっとそばにいなくても、この子は成長しているのだ。

寂しいのは、わたしのほうだ。

職場復帰まで、あと2ヶ月。

とろとろとした初めての粥を口に入れ、子はまたひとつ成長した。

離乳食に慣れる頃には、わたしだって、きっと。




ものがたりに登場する商品




ミルクパン「リコッタ」