『つづれ織りの名刺入れ』

つづれ織りの名刺入れ  日本いいもの屋



「ねぇお母さん、なんでみんなで竹を敷いてるの?」

一度だけ、母と二人だけで、蒸し熱い夏の京都の、大きなお祭りを見た。

大人になって思い返すと、あれは祇園祭の山鉾巡業だった。

車輪の下に割いた竹を敷いていたのは、角を曲がるためだったこともあとから知った。

大きなお神輿は、ダンプトラックより大きく見えた。

数回の掛け声でようやく進行方向を変えると、母がパチパチと手を叩いた。

「全然返事はしてくれないし、拍手するたびに手を離されて、はぐれそうで心配だった」

仲居さんが部屋を出た後、御膳を挟み向かい合って座った母にそんな話をした。

上げ膳据え膳で上機嫌の母は、そうだっけ?と笑った。

勤めだしたら母と二人で旅行することもないかもしれないと思って、

就職が決まった学生最後のこの夏に、母との旅行を思い立った。

繰り返されるお囃子の音色と、力強い山鉾の装飾の豪華さ。

母を独占出来て嬉しかった思い出のお祭りを、母の方ではほとんど覚えていないなんて。

「はい、これ、就職決まったお祝い」

「わぁ、サプライズ?ありがとう」

母がくれた手のひらサイズの箱を開けると、中には深い赤の名刺入れが入っていた。

シルクの名刺入れは、軽くすべすべと手に心地よい。

だけど、この旅行のことも、母はすぐに忘れてしまうんだ。きっと。

お酒が進んだ母が、相変わらずの機嫌の良さで

話し始めた。

「今あげた名刺入れにまつわる話、長くなるけど、聞く?」







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つづれ織りの名刺入れ









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