『漆のコーヒカップ』

輪島キリモト 漆のコーヒーカップ イラスト


「コーヒー、飲む?」

「うん飲む、・・・あれ、こんなカップ、うちにあったの?」

「おばあちゃん家、掃除してたら出てきたから、もらってきちゃった」

「お母さんのおばあちゃん、コーヒーすきだったもんね」

「あら、今日はミルク、入れないの?」

「おばあちゃんを真似して、ブラックに挑戦中」

「ミルクなしで、美味しく飲める歳になったのね」

「ねぇ、お母さん、このカップ、わたしにちょうだい!」

***

「おかえりなさい、お父さん」

「ん」

「ご飯、少なめにしときますね」

「うん」

「今日おばあちゃんちの形見分けしてきたんだけど」

「懐かしいものを見つけてね。漆のコーヒーカップなんだけど」

「結婚記念日にって、昔わたしたち姉妹からペアで贈ったものなの」

「漆か」

「つやつやして、なんだか綺麗でね、おばあちゃん、それはそれは喜んでくれたのよ」

「今日戸棚で見つけて、わがまま言ってわたしがペアでもらっちゃったんだけど」

「あの子が赤い方、気に入っちゃってね、『これちょうだい』ですって」

「ペアだからお父さんと使おうと思ったんですけどね」

「漆のカップか」

「仕方ないから、おじいちゃんが使ってた黒い方は、

 あの子がお嫁にいくときにでも、持たせましょうかね」

「ペアでか」

「いやだ、そんな驚かなくても、まだまだ先の話ですよ」

「うふふ」

「笑い事じゃないぞ」

「うふふ」




ものがたりに登場する商品


輪島キリモト
漆のコーヒカップ