『珪藻土のバスマット』


うちのしきたりの一つ、最後に使った人が、お風呂を洗う・・・は

既に過去の習わしになっていて、今では翌日、母が黙って洗っているらしい。

別にお風呂を洗うくらい、たいした労力じゃないし、嫌じゃない。

ただ、誰がお風呂が終わってないのか、自分が最後なのかどうか、

分からないから洗えないのだ。

たった四人の家族なのに。

小学生までは素直だった弟が中学生になって喋らなくなったから?

そもそもわたしも弟も色々忙しくて、四人揃ってご飯を食べていないから?

11時頃。塾から帰って、テレビを見ながらご飯を食べて、

それからお風呂に入っていたら、脱衣所を開ける音がした。

「ちょっと!いるんですけど!」

だろうと思ったら、やはり母だった。

「バスマット取り替えに入っただけよ。使ったら感想聞かせてね」

見たことがない、マットが敷いて合った。

新しいバスマット?感想?

硬そうなそれを踏みつけてみたら、うわぁ・・・!

リビングへ走って、母に向かって思わずはしゃぐ。

「おかーさん!おかーさん!おかーさん!超気持ちいい。

乗った瞬間、足裏がさらさらになった!!」

「でっしょう!あんた絶対驚くと思った」

「・・・うるさいなぁ」

麦茶を飲み干した弟が立ち上がった。どうやらお風呂の順番を待ってたらしい。

変わらないくらい背が伸びた弟が出て行って、残った母と顔を見合わせる。

「あいつも多分、おっ、と思うと思うよ。」

「そうね。でも何も言わないでしょうね。」

「お父さんは?使った?なんて?」

「お父さんはまだ。明日が初だわね」

満足そうに、母は寝室へ向かって行った。

明日くらいは、話題作りに変わったものを買ってくる母の、援護でもしてあげようかな。

お風呂空いたよって言うために、ちょっとくらい早く帰ってあげよう。




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珪藻土のバスマット