それぞれの " ものがたり "
『ごはんの鍋』
一人暮らしの準備をすることになり、いるものリストを準備した。
「加湿器とかドレッサーとかじゃなくてもっと要るもの考えぇ」
手元を覗いてくる母が発する言葉がうるさい。
「気が散る、見やんといて」
口やかましい母親と離れられるなんて!
一人暮らし、嬉しい!テンション上がる!とにかく嬉しい!
思いつく必要なものをリストにした紙を見せた。
「買わなあかんもの、わりと多いわー」
渡した紙の項目の横に、母が予算を書き出した。
冷蔵庫は、2万。
洗濯機は、2.5万。
カーテン、サイズ次第で最安。
最安って。
テレビは、シュッ。
母が項目に横線を引く。買わんでええってことか?
えー、テレビ。いるやん。
ダイニングテーブル、シュッ。ドレッサー、シュッ。
テーブル系全部あかんって、床で生活せぇってことか。
電子レンジにも線を引かれた、えっ炊飯器まで?
「えっ電子レンジ要るやろ、炊飯器も!ご飯食べられへんやん」
「チンはうちの持って行き。炊飯器も」
「あーそういうこと、びっくりした・・・お母さん書い直すん?」
「買わんよ。あんたおらんなら何もチンする必要ないし、
わたし一人ならいらんやろ。ご飯かてアレでええし」
「あれって何」
「土鍋。ご飯は土鍋で炊くんが美味しいんよ」
「土鍋ご飯!なんかええやん。炊くん、むずい?」
「どやったかな、寝る前お米入れといて、起きたら火つけて」
「うん」
「顔洗ってる間に吹いてくるから、吹いたら弱火にして」
「うん」
「何分やろ・・・化粧してる間にできてるわ」
「お母さんの化粧って何分?」
「5分」
「ぜったいうそやん」
「この土鍋で炊いて残ったら、そのまんまアレできるし」
「あれって何」
「冷蔵庫いれとけるし、食べるときはアレしたらええ」
「あれって何」
「チン」
「さっきからチン言うてるけどうちの電子レンジがチン言うの一回も聞いたことないわ」
「誰に似たんかうるさい子やなぁ、出てって静かになるの楽しみやわ」
「こっちのセリフやぁ」
2ヶ月後、二人でめちゃくちゃに泣きながら引越しを完了した似た者母娘なのだった。
ものがたりに登場する商品
ごはんの鍋 |