ブランド紹介
高岡屋
高岡屋取材記
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ソファにゆったり腰掛けてテレビを見たり、床やラグの上に座って本を読んだり。お家でくつろぐ時間って、大切なひと時ですよね。 でもしばらくすると足や腰が辛くなって、体勢をあれこれ変えたりすることってありませんか? 「ラクに長くくつろぐためには、どうしたらいいんだろう」 今回お邪魔した京都の高岡屋さんは、そんな「くつろぐこと」を長年真剣に考え続けてきた老舗の座布団・布団メーカー。 くつろぐことに関してプロフェッショナルな企業なので、いろいろと面白いお話をお伺いすることができました。 案内してくれたのは、代表取締役の高岡幸一郎さんとスタッフの高岡佳奈絵さんです。 「くつろぐ」ことを追求した道具 高岡屋さんでは、座布団をはじめとする「くつろぐための道具」をたくさん手掛けています。 代表作の「おじゃみ座布団」。ラクに座りやすいのはもちろんのこと、ころんとした形やオシャレなファブリックが目を引きます。 ソファや床に置くだけでも、インテリアのアクセントに。 こちらは大きな丸い形が可愛らしい「せんべい座布団」。大人だけではなく、赤ちゃんもにっこり笑顔になる人気商品です。 今回の取材を通して、くつろぐ道具に込められた熱い想いから、長くくつろぐためのコツまで、みなさんにしっかりお伝えしたいと思います。 寝具作りからスタートした高岡屋さんのあゆみ 高岡屋さんは、1919年(大正8年)に京都で創業しました。もともとは、百貨店の大丸京都店さんに納める寝具の加工所としてスタート。職人の手仕事で丁寧に作られた布団を作ることで、京都に暮らす人々の生活を支えてきました。 ところが戦後、日本人の使う寝具というものが、ガラッと変化していきます。毛布や羽毛布団、羊毛布団など、工場で大量生産された布団が主流となり、職人が作る昔ながらの布団はどんどん衰退していったのです。 「街にたくさんあった同業のお布団屋さんも、次々となくなっていきました。当時はすごく大変でしたね。今だから言えますけど、まわりの人から厳しい声を浴びせられて、くそーっと思うこともありました(笑)」と幸一郎さん。 「寝るもの」から「くつろぐもの」へ そんな時代の大きな変化を、高岡屋さんはどう乗り越えたのでしょうか。 「せっかく職人がいるんだから、彼らが作る布団の技術を生かしてなんとか他のものを作れないかと考えました。誰かがボタンをぽんっと押したら、勝手に機械が作ってくれるようなもんじゃなくて。職人の技を通して、いいものを作っていきたいと」 「試行錯誤するうちに、日本人がくつろぐスタイルってなんだろうと考えるようになって。床にごろんと横になった時に何を使うかなって突き詰めて考えていくと、たどり着いたのが座布団だったんです」 最初に作ったのは「ごろ寝」というシリーズ。座布団を3枚並べて、一番上の1枚をちょっと折ってまくらにする。そういうくつろぐスタイルを、ひとつのコンセプトにしたアイテムです。座布団3枚分の大きさは、まさに名前通り、ごろんと寝っ転がるのにぴったり。 ここから徐々に、くつろぐ道具というもののあり方やブランディングを考えるようになり、「寝るもの」から「くつろぐもの」へと商品作りをシフトしていきます。 時代によって鍛えられた、考える力 時代の流れに合わせて、柔軟に変化を遂げた高岡屋さん。そこには計り知れない苦労があったと思いますが、幸一郎さんは力強く語ってくれました。 「もちろん、当時は我々にとってすごく大変やったんですけど。でも後から考えると、そういう時代があったからこそ考える力がついて、今の形があるんです」 「あの時そのままずーっと同じことをやっていたら結局次を考えることもなく、小さな市場の中でもがくだけもがいて終わっていたでしょうね。そう思うと、当時むちゃくちゃ厳しく言われたこともありがたいな、と(笑)」 クッションと座布団の違いって? ところで、現代のくつろぐスタイルを想像したとき頭に浮かぶのが、クッションの存在です。クッションと座布団。一般人の私から見ると「洋」と「和」ということ以外、あまり大差なく見えるのですが…。 「クッションは中身を『詰める』、座布団は中身を『形作ってから入れ込む』というのが大きな違いです」 クッションは単純にわたを詰めるだけでいいのですが、座布団というのは『上に人が座る』ことを考えて作らないといけません。 そのため、体重がかかる中央部分はわたをたくさん使ってふっくらとさせ、下は平らにした「かまぼこ型」にわたを成形してから、生地に入れ込んで作っていきます。ここに、職人の技や工夫がぎゅっと詰まっているのです。 「クッションや座布団というのは使い込むうちにへたっていくものですが、良い座布団は均一に平らにへたります。へたり方もきれいなんです。ただわたを詰めるだけだと、中身が片寄ってデコボコにへたるんですよ」と佳奈絵さん。 なるほど! 同じように見えても、そんな違いがあったとは驚きです。 ラクに長く座るには、お尻を浮かせること では、高岡屋さんの看板商品である「おじゃみ座布団」はどのようにして生まれたのでしょうか。 戦後の日本は住空間が変化して、畳の部屋がどんどんフローリングに変わっていきました。その中で日本人の体型も変化し、昔よりも長い時間床に座ることが難しくなるように。そこで高岡屋さんは「少しでもラクに、長く座るにはどうしたらいいか」と考えました。 「僕自身きっかけになったのは、宴会に行ったとき。長いこと座れなくなったんで、座布団を1枚もらって半分に折ってお尻に引いたんです。座布団を大事にせなあかんと思いながらも(笑)みんなよくやるでしょ。お尻をちょっと浮かしたら、だいぶラクになるんですよね」と幸一郎さん。 そこで思いついたのが、高さのある座布団。座布団でお尻を浮かすと、知らないうちに背筋がすっと伸びる。そうやって良い姿勢になれば、自然と長くラクに座ることができると気付いたのです。 実際に座ってみると!? せっかくなので、高さのあるおじゃみ座布団に私も座ってみました。男性はあぐら、女性は割座で座るとよく分かります。自分の足ではなく座布団が体を支えてくれるので、見た目以上にラクチン! 画像はモデルさんですが、まさにこの画像のように背筋が自然と伸びるので驚きました。普段から「姿勢よく座ろう」と思っているとリラックスできませんが、おじゃみだと何も考えなくても姿勢がよくなるので、気分的にもラクチンですね(笑) また、ソファや椅子の場合は、自分の背骨のそりに合わせておじゃみを置くとラクに座ることができます。 お手玉をモチーフにした、おじゃみ おじゃみは、ころんとした可愛らしいお手玉の形をしているのも特徴的。この発想はどこからきたのでしょうか。 「たまたま一人の社員がお手玉を持ってきてくれて。お手玉って昔からあったじゃないですか。ああ、これ可愛いよなぁと思って、それを座布団に使ってみたらどうだろうと。京都でお手玉のことをおじゃみと言うので、おじゃみ座布団と名付けました」 ところが、お手玉のように4枚の生地を縫い合わせるところまではスムーズにいきましたが、わた入れの段階で壁にぶつかってしまいます。 「日本の座布団はみんな『平面』やったけど、おじゃみは『立体』。ただわたを詰めるだけでは、使い込んだ時に均一にへたるという、理想の座布団にならないんです」 そんな中がんばってくれたのが、わたを入れる職人たち。長年培った技術を応用しながら、おじゃみ独自のわた入れ方法を確立していきました。 「生地が変われば硬さも変わってくるので、わた入れ方法もひとつじゃありません。一個一個工夫しながらわたを入れていく。まさに職人技です。量産が難しい部分もあるのですが、工場では再現できない、うちならではの形です」 ひとつひとつの生地に、ストーリーがある 取材でお邪魔させていただいたお部屋には、色とりどりのおじゃみがたくさん並んでいました。そのバリエーションの多さに、思わず「わー!」と見惚れてしまうほど。 「今はみんなインテリアの個性を大事にしている時代なので、その人の部屋に合った色とか柄を選べる方がいいと思って。うちでは、綿生地だけでも2500くらいの組み合わせができます」 高岡屋さんでは、綿以外の生地もたくさん取り扱っています。ヨーロッパの生地を使ったもの、京都ならではの西陣織で仕立てたもの、昔からの染めの技法を使ったもの、着物の帯をリメイクしたもの。 ひとつひとつのファブリックに想いがあって、ストーリーがある。ここではとてもすべてを書ききれないので、ひとつだけご紹介します。 これは障害者施設で作っている、刺し子を使ったものです。 「縁があって作らせてもらったんですけど、これってほんまに世界にひとつ。彼らの刺し子は、色の組み合わせとか刺繍のリズムとか、すごい才能がある。めちゃくちゃきれいですよね」と幸一郎さん。 「国内にも海外にも、素材ってほんとにたくさんあるんですよ。大量生産・大量消費は終わったと言われていますけど、やっぱりまだそういう部分が残っているので。うちはひとつずつ想いを込めて、これからもいいものを作っていきたいなぁと思っています」 もともとは、お父さん向けのせんべい おじゃみとともに、高岡屋さんの人気商品となっているのが「せんべい座布団」です。これはどういう経緯で生まれたのでしょうか。 「今は赤ちゃんと一緒に紹介させてもらうことが多いですが、もともとは家の中でお父さんにちょっとでも大きいスペースでくつろいでもらおうと作ったものなんです」と佳奈絵さん。 「一番最初は、作務衣でおじさんが座ってる写真を使っていたんですけど、それはみなさんにあんまり響かなかったみたいで(笑)」 ママと一緒に、どんどん進化 「ある日、お友達がたまたまこの写真を送ってきてくれて。これを見て、『赤ちゃんが可愛い!』ってなったんです。ほんとにね、ここに赤ちゃんを寝かせると、赤ちゃんがにこっとするんですよ(笑)」 直径1mの丸い形が、小さな赤ちゃんのサイズ感にぴったり。おしめ替えやプレイマットとして、ちょうど良く使えます。 「みんなが赤ちゃんとせんべい座布団を一緒に撮って、うちに送ってきてくださるんですよ。その写真を載せると、また私も私もって広がっていく。ありがたいですよね」 そうこうしているうちに、「おしっこがついたのに洗濯できなくて困る」という声が届きました。それならと洗濯できるカバーを作って、中身の座布団は撥水生地に。 そんな風にお母さんの声と一緒にどんどん進化していき、今では立派な人気商品へと成長を遂げました。 職人の技が光る、現場へ ここからは高岡屋さんの商品が作られる工房へお邪魔して、現場を見せていただきましょう。 まずは座布団を作るうえで要となる、わた入れ作業から。 わたを座布団の形に成形して、生地に入れ込んでいきます。想像よりも大量のわたが、どんどん手早く収まっていく様子はおもしろくて、目が離せません。 こちらは、伝統的な京座布団です。わた入れが終わった座布団は、美しいかまぼこ型で角までしっかりわたが入っています。 こちらはおじゃみ座布団。おじゃみ1個に対して、肌掛け布団1枚分ぐらいのわたが入っているそう! 「わたは湿気を含むので、わた入れをする時の湿度が関係してきます。毎回同じ量を入れれば良いわけじゃなくて、湿度によってわたの量を調整しないといけない。そこはもう感覚なんで、ほんとに職人さんにしかできないですね」と佳奈絵さん。 座布団の中央に施される「綴じ」。これをすることでわたがズレないのはもちろん、座りやすくてきれいな形状に決まります。分厚い座布団に正確に針を通すのは、とても難しい作業です。 わた入れをしたおじゃみは、ひと針ひと針手縫いで仕上げていきます。 こちらはわた入れが終わったせんべい座布団を、専用のミシンで綴じているところです。 経験や感覚を頼りに調整するのも職人の技。 道具を使いこなすのも職人の技。 機械を操作するのも職人の技。 どの工程も人の手や考え、想いがしっかり入っており、いわゆる機械任せで済む部分はひとつもありません。この現場こそが「職人の技を通して、いいものを作っていきたい」という高岡屋さんの目指す形そのものですね。 みんなが笑顔になれるように 最後に、今後の展開についてお伺いしました。 「基本的に我々の会社は『みんなが笑顔になってくれればいいなぁ』と思ってやってるんです。買っていただいたお客様も、商品を作っている我々も、原料とかをやってくれている人も。みんなが笑顔になれるような、そういう展開を目指していきたいんです」と幸一郎さん。 例えば、食品ロスを少なくするのと同じように、繊維ロスをできるだけ少なくするためにはどうしたらいいのか。今の世界情勢をみながら、海外展開をどう動かしていくのか。 ひとつひとつの物事に対して、ただ流されるのではなく、しっかりと立ち止まって自分たちで考える。当たり前のようでいてなかなかできないこの姿勢は、ひとつひとつ想いを込めてモノづくりを行う職人さんの姿と重なるものがあります。 「考えることは山ほどあって、行き詰まるところまで考えられていない。まだまだできることは残っているなと(笑)」明るく笑う幸一郎さんと佳奈絵さんの笑顔がとっても印象的でした。 長い時間取材にご協力いただき、ありがとうございました! |
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高岡屋の商品一覧
おじゃみ座布団 |
せんべい座布団 |
おじゃみ座布団 グラフ |
おじゃみ座布団 ブレンデル |
おじゃみ座布団 染めのさきら |
おじゃみ座布団 西陣織 |
おじゃみ座布団 カサマンス |
おじゃみ座布団 ルチアーノマルカート |
おじゃみ座布団 ロモ |
おじゃみ座布団 フィスバ/ヌーベル |
おじゃみ座布団 ムーン |
おじゃみ座布団 イージークリーン |
おじゃみ座布団 ジムトンプソン |