ブランド紹介
山本勝之助商店
山本勝之助商店 取材記
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和歌山県海南市は、県の北西部に位置する人口5万人のこじんまりとした町。
世界遺産、高野街道の山麓、紀州野上谷と呼ばれる地域で、かつて地域産業を作り上げた人がいました。それが、今回紹介する山本勝之助商店の初代、山本勝之助さんです。海南市は、棕櫚(しゅろ)の集積地であったことから、それを原料とした家庭用品を生産する日本有数の地域です。
その棕櫚に最初に注目し、海南市の地域を棕櫚を使った産業で盛り上げたのが山本勝之助さん。今も手仕事にこだわり、職人さんが1つひとつ作り上げていく棕櫚製品と同じ山でとれる山椒を守り続け、全国に魅力を伝え続けています。 1880年に創業、141年目を迎える山本勝之助商店の歴史と、当時と変わらぬ棕櫚製品への思いを、4代目の代表取締役 土田高史さんに伺いました! 土田さんと山本勝之助商店 土田さんは、山本勝之助さんのひ孫にあたる英津子さんの旦那さま。 もともと大手メーカーに勤めていらっしゃいましたが、山本勝之助商店の先代が他界、後継ぎがいなかったことをきっかけに、一念発起。 伝統ある商店を継ぐことを決意されたそうです。「まず山本勝之助商店の棕櫚製品を見た時に、素材の良さに感心しました。自分自身もそれを日常に取り入れてみて日に日に湧く愛着も感じ、だからこそここまで141年間も人々に愛されてきたのだと実感しました。」その後、地域の家庭用品組合に足を運び、近隣でビジネスをする人々への挨拶から始め、創業者の威徳を肌で感じたという。「ある意味私が外部から来たからこそ、棕櫚製品の良さに気づくことができたのかもしれません。このまま無くなってしまうのはあまりにももったいない。それに、創業者の威徳と町の人々との繋がりもある。これはできる。やらなければならない。」 でも創業者の威徳を感じながら一からまたビジネスを組み立て、取引先や地域で商売をされている人たちとの関係を作っていくのは決して簡単ではなかったはず。引き継いだ当初はほとんど売り上げが無く、自転車操業状態だったと言います。ホームセンターなどに卸すにも、他の日用品に埋もれてしまいます。まず、手仕事なので大量生産はできません。そこでほしい人に直接買ってもらえるインターネットでの販売に注力。さらに全国ネットのテレビ番組複数で紹介される追い風もあり、全国的に知名度が一気に上がったそうです。 棕櫚産業と山本勝之助商店の歴史 山本勝之助商店は、棕櫚の卸業から始まりました。 創業した明治13年、当初は高野山にたくさんの棕櫚の木が生えていました。 丈夫な皮に着目し、その特性を生かした縄が棕櫚製品の中で最も歴史あるものだそうです。 水に浸けても腐らないため、漁業で使う漁網にも重宝され、全国の漁港で広く使われていました。 その後あらゆる日用品に棕櫚が使われるようになり、海南市が棕櫚を原料とした家庭用品の製造地として発展していったのです。今では棕櫚たわしや棕櫚箒が有名ですが、これらが製造されるようになったのは少し後のこと。和歌山県海南市といえば、家庭用品や日用品の製造が盛んだということはなんとなく知っていたけれど、それが棕櫚から始まっていた、そしてその原点こそがここ山本勝之助商店。点と点が繋がり、なんだか少し感動しました。 山本家の屋号は「かねいち」。「まっすぐに筋を通すお店の器と、正直を信条として人の道を踏み行うことを第一とする」商売に対する姿勢が表現されています。この想い通り山本勝之助さんは自身だけの成功のみならず、事業を地域産業にし、周囲の人々も幸せに暮らせるように活動されました。「手廻しせねば雨が降る」という言葉は、現在でもかねいちの経営訓として掲げられているもの。「悪い状況に陥らないよう、日頃から事前に準備しておくべし。」という商売に対する心得を意味し、地域で新たに商売を始める人たちの多くを成功に導いてきたそうです。 母屋が登録有形文化財?! 歴史の長い山本勝之助商店。建物も当時の面影がほとんどそのまま残っています。母屋を含め11棟の建物があり、2007年に全ての建造物が国の登録有形文化財に指定されました。こちらの蔵は、大正時代の建物。そして現在お店になっている建物は、明治時代に建てられたそうです。これだけ綺麗に使われていることが何よりすごいですね。さらにその横の母屋は、江戸時代の建物です!このあたり一帯は、幸いに戦争で焼けなかったこともあり、今でもそのままの状態で残る貴重な伝統家屋です。取材日お店に到着した時からその出で立ちがあまりにも美しく重厚感があり、またこれまでの歴史を強く感じ背筋が伸びました。 「山物」とは? 山本勝之助商店では、棕櫚を原料とする家庭用品と高野街道の山麓でとれる山椒などの薬味を販売しています。取材に伺う前、「なぜ棕櫚製品と山椒?どういう繋がりがあるんだろう?」と疑問に思っていました。 「山本勝之助商店は、山物屋(さんぶつや)です。棕櫚も山椒も同じ山でとれます。全く別のように見える2つですが、そういう繋がりがあるんですよ。」 「山物」とは、文字通り、山でとれる物のこと。「山物屋(さんぶつや)」とは、山物を扱うお店のことで、以前は海南市に多く存在しました。かつて棕櫚がたくさん生えていた他、漢方薬の原料となる、ニッキなどの「薬種」が同じ山で収穫されていました。今商店が山椒だけに集約しているのは、薬種だけにとどまらず料理にも使われるようになったからだそうです。 このように山物を扱う商売をしていたことから、山本勝之助さんは自前で神社を造り、毎日山の豊かな資源に感謝したと言います。 日本中に木々を植えて回ったと『日本書紀』に記される五十猛命(いたけるのみこと)という神様を祀る神社、伊太祁曽神社(いたきそじんじゃ)から神様を分けてもらい、毎日拝まれたそうです。自分だけでなく、周囲の人の幸せを。さらに、その恩恵をいただいている自然にも感謝を。経営者になるべきしてなられた方の志だと、このエピソードからも痛感しました。 使うほどに愛着が湧く棕櫚箒 現在、山本勝之助商店では棕櫚製品の販売を行い、製品の製造は専属契約している職人さんが行っています。手作業であたたかみのある棕櫚製品を、141年前から変わることなく世に贈り続けています。たくさんある棕櫚製品の中でも看板商品は、棕櫚箒。「まずは一度試してみてください。」と土田さん。 私も早速畳を掃かせていただきました。 繊維1本1本がしっかりしていてキメが細かいのにしなやかで、掃き心地が良く驚きます。フローリングを傷付けることなく、長年使うことでじわじわと艶が出るワックス効果も人気の秘訣。 さらに棕櫚製は、繊維が強いので傷みにくく、化学繊維の箒よりも頑丈なのも特徴です。小さな棕櫚箒は、壁に掛けておくだけでもおしゃれなインテリアに。 最近では手仕事で作られたものの良さに感度が高い、若い人たちの購入も増えているそうです。 棕櫚箒は10種類以上 お店に入ると、棕櫚箒がずらりと並んでいます。こんなに種類があるんだ、と新しい発見でした。そう、一口に「棕櫚箒」と言っても種類は様々、山本勝之助商店では10種類以上の箒を扱っています。
今回試し掃きさせていただいた2種類はこれ。見た目も少し違うのが分かりますよね。両方掃いてみましたが、重さも掃き心地も全く違いました!右上の棕櫚箒は、繊維が1本1本独立しています。
これは「鬼毛巻き」で棕櫚箒の中でも最高級品。
棕櫚の皮の太く、頑丈な毛のみが厳選して組まれています。
毛先の開きやクセが出にくいのも大きな特徴。
柔らかい掃き心地ですが、埃を巻いあげることもなく、細かい埃もよく掻き出せます。
左下は棕櫚の皮をそのままくるくる巻いて仕上げた定番の棕櫚箒で「皮巻き」と呼ばれます。
軽く、扱いが簡単で万能の箒です。
何度も使用すると毛先が寝てきてしまうこともありますが、棕櫚は自然のもの。
霧吹きで軽くしめらせ、まっすぐに癖付けすればまた元どおり。
こうやって同じ物を何度も使えるなんてとてもエコですよね。 「修理して、同じ棕櫚箒を使いたい」 「一生に3本で足りる」と言われるほど、耐久性がある棕櫚箒。 メンテナンスすることでさらに長く使えます。 もともと竹の棒に棕櫚の皮や繊維を巻き、銅線で巻いて仕上げているので、接着剤などは一切使用していません。 そのため、組みなおせば繰り返し使えます。「修理代無料、材料費と送料のみで箒の修理を承っています。愛着があり、生活の一部だからと言って新品に買い換えることなく、同じ箒を修理に出して何度も使ってくれるお客さんもいます。そう言ってもらえることも嬉しいし、快く協力してくれている職人さんにも感謝しています。」 持ち手の竹を新しい竹に交換したり、艶出ししたりと、丁寧に丁寧に、心を込めて作業される姿を見て、だからこそ長い歴史を経て親しまれてきたのだなあと改めて感じました。 月に5~6本程度修理の依頼が来るそう。 今日も1本1本丁寧にメンテナンスをしています。 石臼で挽く、甘酸っぱい香りの山椒 御年77歳でこの道50年以上。15歳の時から山本勝之助商店の山椒を石臼で挽いて来られたのは辻さんです。
1日に10kgほどの山椒が商品としてこの場所で作られています。 山椒は「ミカン科」の植物だとご存知でしょうか? 和歌山県はミカンの産地。温暖で多雨な気候のため、ミカン科の山椒もよく育ちます。お店に入ると、柑橘系の甘酸っぱい香りがふわり。 「山椒ってこんな香りなんだ!」と驚きました。山本勝之助商店では、山椒を収穫し実の状態を確認した後すぐに冷凍庫で保存しています。 「山椒は、光と温度と空気に弱いです。そのため保存環境には特別気を使っています。でも保存環境さえきちんと管理できていれば時間が経ってもずっとこの柑橘系の香りがするんですよ。」山椒の種は抜き、皮のみを石臼で挽いていきます。 そうすることで、種の油で酸化することなく良い香りが保たれるそうです!2度細かく濾された山椒はこんなにあざやかな緑色をしています。 お土産に山椒をいただきました!お料理のスパイスに活躍しそうです。土田さんのおすすめは、チョコレート、チーズ、バニラアイスに少し山椒を付けて食べる方法なんだとか!私も取材後にバニラアイスで試してみたのですが、ピリッとしたスパイスが効いた大人の味がやみつきになりました。 未来に残していきたい棕櫚製品 「化学繊維だけでなく、掃除機も普及し、手仕事で作られる棕櫚箒はどんどん淘汰されてきました。でも、やっぱりモノが良いからこそ消えずに、141年間も愛用されています。」 「私たちの提供する棕櫚製品はどこへ出しても自慢できるものだと思っています。実際に使って『他のものとは違う、良かった』と言ってもらえることこそが私や従業員、職人さんの励みになっています。」棕櫚製品は伝統工芸品である前に家庭用品です。 日常的に使ってもらうことでより親しみを感じ、素朴な魅力が分かるもの。 取材を通して、手仕事の温かさを感じたのはもちろん、土田さんの棕櫚製品と山椒への愛情を強く感じました。 山本勝之助商店に伝わる長い伝統と熱い想いをお聞かせいただきありがとうございました! |
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