それぞれの " ものがたり "
『ソケットランプ』
「お母さんと違って、無趣味だからねぇ」
退職後の父の行く末を、母と姉と居間に集まって
みかんを食べたり、お歳暮に頂いたお茶を啜りながら、心配していた。
3人の会話を聞こえていないふりをしているらしい父が、
音を立てずにコーヒーを飲んでいる。
「おとうさん、そのマグ、わたしの!」
「バアサンのだろ」
「わたしがお母さんから譲り受けたのー」
「それは赤いほうだろ」
「その黒は未来の旦那様の!!」
そんな父が、退職したこの春から、友達とコーヒースタンドをやるといいだした。
「口下手なお父さんが・・・」
「ね、客商売向いてないよね・・・」
毎日飲んでいたのは知っていたけれど、そんなにコーヒー好きだとは知らなかった。
女3人に好き勝手言われながら、とうとう店が完成してしまった。
「見に行きましょう」
言い出したのは母だった。
父の友人はおしゃべり上手で旅行好きらしく、父とは真逆に思えた。
「アジアン雑貨を散りばめようと思ったら、カウンター席だけは譲れないって、
君たちのお父さんが言い張ったんだよ。見てよこのシンプルなソケットランプ。」
つるりとした質感で、小さいのに存在感がある。
陶器製らしいライトがカウンターにズラリと並んでいた。
こんなソケットランプを、父が選ぶなんて。
その人は続けた。
「この雰囲気がいいんだ、かざり立てた綺麗さは、いらないんだって。」
父がこだわったのは、シンプルで、一番きれいな形。
父の知らない一面を見た気がした。
隣では、化粧っ気がない母が、うんうん、と頷いていた。
ものがたりに登場する商品
|
ソケットランプ |
|