それぞれの " ものがたり "
『握り鋏 101シリーズ』
「とってもかわいい!それ、もしかしてハサミ?」
パブから帰ってきたシェアメイトが、わたしの手元を見て声をかけた。
ロンドンへやってきて2週間、いきなり英語で話しかけられても
何を言っているのか、そろそろ分かるようになってきた。
「うん、グリップして使うハサミよ」
週明けに提出する課題のブラウスに、襟元に刺繍を入れては糸を切る。
夕飯も食べずに作業しているのに、終わりは見えない。
こんな調子で仕上がるんだろうか。
考えるとすぐ泣きたくなる、わたしは周りについていくので精一杯だ。
「珍しい形!なんかすごく''切れる''って感じ!」
「日本を出発する前に、ええと・・・なんて言うんだろう、・・・メンテナンスしたから」
服飾の学校に入るときに、裁縫の道具を一揃え買ってもらった。
それから2年、この留学直前に、買ったお店で研いでもらったばかりの握り鋏だ。
確かに切れ味も抜群で、そういえばさっきから作業はこの握り鋏に助けられている。
もしかしたら日本でしか使われてないのかもしれない。
祖母の道具箱にも母のそれにも、必ず入っていた握り鋏。
良い道具を使わないと、上達しないわけじゃない。
だけど、下手なうちは、良い道具が助けてくれるっていうのは、お祖母ちゃんのことばだ。
当たり前のように使っていたけれど、この小さな相棒がいなかったら
留学すら出来てなかったかも知れない。
日本から、助けてくれている存在を思い出す。
「よっし、がんばろ」
その前に、熱々のフィッシュアンドチップスにビネガーをたっぷりかけて食べよう。
ものがたりに登場する商品
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握り鋏 101シリーズ |
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