それぞれの " ものがたり "
『ウールストール』
夜。
ピンポーンと届いた宅急便、段ボール箱を再利用して送ってくるから、
誰からかすぐわかる。
みかんと、里芋と、きっと誕生日プレゼントのつもりだろう、包装されたの箱があった。
開けると、好きな色味のウールストールが入っていた。
-お母さんにLINEしとくか。
浮かんだ考えは、子供が私を呼ぶ大きな声でかき消されてしまった。
朝。
「早くして!」何度も同じセリフで子供を急かす。
昨日届いたばかりのストールを羽織って、子ども急かし続けてようやく園に着く。
門を離れながら、私が10分早く起きれば子供に怒らず済むのにと今日も思う。
ストールをもう一巻きくるっと巻いて、職場まで自転車を漕いだ。
夕方。
職場を出る頃ストールを見て思い出した。
「あ、LINE」・・・とりあえず後回しにして、お迎えに行った。
自転車を止めながら、孫のお迎えにきたおばあちゃんと、挨拶を交わす、いつも通り。
-こんにちは、寒いですね。
-こんにちは。冷えますね。
-あら、そのストール、いい色ね。
-え。
いつもそんなこと言わないおばあちゃんなのでびっくり。
服や髪の変化に触れるのは、若いママ友だと思っていたから。
-自分で選んだんじゃないんですけど、地元の母が送ってくれて。
何か照れてしまって、聞かれてないのに、説明してしまう。
-お母さん、似合う色を知ってるのねぇ。
おばあちゃんがそういうので、気の利いた返しもできず、えへへ、と笑う。
子どもには「ありがとう」「どういたしまして」ってきちんと言いなさいって
言っているのに、いざとなると誤魔化し笑い。
教室から子供が出てくる声がして、子供が友達と連れ立って出てきた。
「おかあさーん」
おかえりー。手を広げて、子供を迎える。
「おかあさんのマフラー、あたらしい!」
子供がストールに手を伸ばす。
「ふわふわ!」
朝から着けてたんだけど、ああでも、朝は全然向き合えてなかったな。
ぎゅっと子供を抱きしめて、ここにいない自分の母を思い出した。
子供の頃の、冬。
その格好で寒くない?上着の前はちゃんと閉めときなさい!
一緒に出かけた帰り、薄着の私に巻いてくれた母のストールは、いい匂いがして暖かかった。
-ちょっと電話するね。座っといてね。
自転車の後ろに座った子供に毛布を掛けて、すぐに電話した。
-あ、お母さん?うん、届いとるよ、ありがとう。
母の温もりをストールに感じて、故郷がとっても懐かしくなった。
ものがたりに登場する商品
ウールストール | tanbo |